2023年4月10日
ポイント
●コロナ禍の札幌市における急性冠症候群(ACS)の診療実態を調査。
●札幌市ACSネットワークシステムを介したACS診療はコロナ禍でも機能していたことを報告。
●感染症有事のACS診療における、札幌市ACSネットワークシステムに期待。
概要
北海道大学大学院医学院博士課程の齊院康平氏、同大学病院循環器内科の竹中 秀助教、同大学院医学研究院循環病態内科学教室の永井利幸准教授、安斉俊久教授、札幌市ACSネットワーク代表の牧野隆雄氏(市立札幌病院循環器内科部長)らの研究グループは、札幌市の急性冠症候群(Acute Coronary Syndrome: ACS)患者搬送システムである札幌市ACSネットワークを介したACS診療実態について検討し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック前後で札幌市のACS診療は大きく制限されなかったことを報告しました。
COVID-19は、2019年12月に中国武漢で発生したのち全世界へ拡大し、世界のACS診療にも大きな影響を及ぼしました。欧米の都市部では、COVID-19パンデミック下においてACS患者の救急搬送時間の著しい延長、経皮的冠動脈インターベンション(Percutaneous coronary syndrome: PCI)実施率の低下が報告されていますが、本邦都市部におけるACS診療の実態調査が求められてきました。
札幌市ACSネットワークは、札幌市医師会、保健局、消防局の協力により、札幌市における循環器救急患者の救命率向上を目的に2010年に設立されました。ネットワーク参加病院は4つの地区毎に輪番制を敷き、市内の循環器救急診療を支えてきました。本研究では、2018年6月から2021年11月の間、札幌市ACSネットワークの参加病院29施設に救急搬送されたACS患者656例において、COVID-19パンデミック前後での救急搬送数、搬送時間、治療方針、院内死亡率の変化を検討しました。
結果、ACS患者搬送数はパンデミック後に有意に減少しましたが、緊急PCIの実施率や院内死亡率はパンデミック前後で有意な差を認めませんでした。また、搬送時間はパンデミック後に有意に延長しておりましたが、中央値で数分以内の延長にとどまっていました。
これらの結果から、札幌市ACSネットワークの救急搬送システムは、COVID-19パンデミック下でも機能しており、適切なACS救急診療が行われていた可能性が示唆されました。今後も同様な感染症有事がACS診療に重大な影響を及ぼす可能性があり、その際に本システムの効果が期待されます。
なお、本研究成果は2023年3月29日(水)公開のScientific reports誌にオンライン掲載されました。
論文名:Impact of COVID-19 pandemic on emergency medical system and management strategies in patients with acute coronary syndrome(COVID-19パンデミックが急性冠症候群患者の救急医療システム及び治療戦略に与える影響について)
URL:https://doi.org/10.1038/s41598-023-32223-1
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