2022年7月27日
ポイント
●雪解け時期の早期化が森林の植物へ及ぼす影響を大規模な野外実験により世界ではじめて検証。
●雪解け時期が早まると、植物が利用しやすい土壌窒素が増え、ササの成長が促進されることを解明。
●積雪地の森林が二酸化炭素の吸収によって気候調整を行う機能の正確な予測に期待。
概要
北海道大学大学院北方生物圏フィールド科学センター小林 真准教授らの研究グループは、地球温暖化にともなって雪解けの時期が早まると、北海道の森林に生育する植物がどのような影響を受けるのかを調査した結果、雪解け時期の早まりはダケカンバ等の大きな木(成木)の成長には影響を与えず、林床植物のみ稈(かん: 枝にあたる部分)の成長を約15%増加させることを明らかにしました。
研究では大型ヒーターに接続した温風の出るダクトを森中に張り巡らせ、森林全体(合計1,600平方メートル)の雪を溶かすという世界でも類を見ない大規模な野外実験を行いました。実験により10日間ほど雪解け時期が早まると、土壌中の微生物が活発になり、春先に植物が成長に利用しやすい土壌中の窒素が多く作られました。一方、養分の増加は、成木の成長促進には影響を与えなかった一方で、林床植物であるササの成長を促進することが分かりました。
本研究は、"雪解け時期の早まり"という冬に起こる気候変動は、森林の植物へ等しく影響するのではなく、林床植物と成木ではその影響の受け方が異なることを、人工的に雪解け時期を早める大規模実験により示した世界で初めての成果です。
雪解け時期の早まりに対して林床植物の成長が、より敏感に増加することが明らかになったことで、将来の森林が大気中の二酸化炭素を固定する機能を推定する際には、成木だけではなく林床植物による二酸化炭素の吸収を評価することが重要であることが分かりました。今後は、より正確に将来の森林による気候調整機能の理解が深まることが期待されます。
なお、本研究成果は、2022年7月26日(火)公開のEcosphere誌に掲載されました。
論文名:Early snowmelt by an extreme warming event affects understory more than overstory trees in Japanese temperate forests
URL:https://esajournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ecs2.4182
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大きさ1mほどの大型ヒーターを用いた大規模な野外実験の様子(左)。
左半分が雪解け時期を早めた森林、右半分が通常の雪解け時期の森林の様子(右)。